(2) あなたの名前は「ひらがな」?

 AKB48のメンバーは、117名です(2017年12月現在「AKB公式サイト」2017.12.21参照)。そこにはひらがなの名前の女性が11人(います。

 ひなな みう ゆき えりな なぎさ めぐ もか ひかる みなみ くるみ なつき

その割合は、9%です。他の91%は漢字名(1字名12人、2字名82人、3字名12人)です(日本全体では、最近生まれた女の子の7%ほどがひらがな名です。 明治生命の「名前ランキング2016」で女性名を見ると

  2位 さくら 13位 ひかり  23位 あかり   27位 ひなた  49位 のどか  60位 ひまり、すず 

  70位 すみれ 97位 ひなの

とトップ100に、9のひらがな名が入っています。「ひらがな名」には魅力があるのです。私が教える大学にも、「帆乃夏」さんという学生がいます。でもいつも名前は「ほのか」とひらがなで書きます。理由を聞いてみると「テストのとき、速く書ける」「習字の名前を書くのが簡単」「雰囲気が好き」とのことでした。

 

  今は、ひらがな名は少数派です。しかし江戸時代の女性名は、「かな2字2音節」がふつうでした。そのことについては、すでに述べました。→「庶民の女性名」は

 江戸時代の有名な女性(物語の主人公など)を見てみても

  お岩(四谷怪談) お初(近松『曽根崎心中』) お富(歌舞伎『与話情浮名横櫛(お富与三郎)』) 八百屋お七(大火)

 

2音節の名前が並びます。

 右は、1804年の西富岡村(現在、神奈川県伊勢原市西富岡)の「宗門改」から女性110人の名前です。ほとんどが「ひらがな2字名」です。               (表1)→

 

 

  

 右は、江戸時代の5つの地区の「宗門改帳」から「女性2字名の割合」を表したものです。

  1栃井村(現,岐阜県川辺町)

  2五郎丸村(現,愛知県犬山市)

  3八町村(現,愛知県岡崎市)

  4土呂村(現,愛知県岡崎市)             表2→

  5西富岡村(現,神奈川県伊勢原市)

 

 角田文衛『日本の女性名(下)』(1988教育社)には、右図のような全国の35地域の「宗門改人別帳」などの史料から調査結果が載っています。それによると、ほぼ100%が「単純型」「2音節2字型」です。江戸時代の庶民の女性名は、ずっと「2字名」です。身分制度の時代ですから、庶民の名前にも「しきたり」があったのです。

 

  ところが、いくつか、その「しきたり」からはみ出した地域がありました。「多様型」です。「い/え/の/よ/を型」「◯◯み型」「小◯◯」です。「い/え/の/よ/を型」とは、「かな2文字」のあとに「い/え/の/よ/を」がつく名前です。

  まつ-い まつ-え まつ-の まつ-よ まつ-を

といった具合です。それらについて角田は「分布が限られている」と書いています。

 その角田が指摘した一つ、現在の和歌山市加納の「宗門改帳」を見てみましょう。

  右の表を見てください。1825年の加納村(現在、和歌山県和歌山市)の宗門改帳(『和歌山市史 第6巻 近世史料』1976)からのものです。153の女性名が並んでいます。

 そのうち82名(54%)が「お◯◯」です。18名(12%)が「小◯◯」です。他に「◯◯の」が44名(29%)、「◯◯へ」が7名(5%)あります。

 

 その「お/小/の/へ」を取りのぞいて列挙してみると

  きよ すて いし とよ すへ しん いつ しか ふさ くす とめ....... 

 上の「1804西富村(表1)」と同じようになります。

 つまり「お/小/の/へ」をつけた名前は、愛称のようなものです。AKBメンバーでいうと

 まいまいちゃん、 さきさきぽん、 めぐおめぐまゆまゆゆ

と言った具合です。

     

 

 どうしてこの村の「宗門改帳」だけ、女性名に「おー」「小ー」「ーの」「ーへ」がついているのでしょう。隣の2つの村の「宗門改帳」もあります。その3つを比較してみましょう。右は、現在の和歌山市の地図に、3村のあった場所を表記したものです。その3村の「宗門改帳」を比較してみましょう。

 ① 1825「加納村」   お○○ 小○ ○の ○へ

 ② 1848「八軒屋村」  ○     ○の ○へ ○よ   

 ③ 1837「松島村」         

 3つうち松島村だけは「かな2字」です。この違いをどう考えたら良いのでしょう。

 3村は隣同士です。今でいえば隣町です。そんな3村で、「女性名の呼び方が変わっていた」と考えるのは不自然です。

   その当時、「宗門改帳」を書いたのは村の庄屋です。「庄屋の考えの違いで3つの差ができた」と考えるのが自然です。

 「宗門改帳」には、「かな2字名」で書かれていても、実際には「お○○ 小○ ○の ○へ」という呼び方で呼ばれていたのです。和歌山だけでなく、他の地域でも同様なことが少しはあったことでしょう。

 しかし多数は「かな2字2音節」でした。明治維新になり、それまでのしきたりが解け、かな2字に「い、え、の、よ、を」がついた名前の女性が表面に現れてきたのです。

 

 

 最近の女性名は

 さくら ひかり あかり ひなた のどか 

 ひまり すみれ

といった名前がトップ100に入っていますが、それらは、どれも「かな2字+い/え/の/よ/を」型ではありません。かな3字で意味を持っています。それも今の時代の流れを表しているのでしょう。